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この日だけ6月 15日 月 .
週末はちょっと松山に取材で行ってきました。いろいろ拝見しましたが、とりわけ松山城がすてきでした。

それはさておき、先月末から今月初頭にかけて、プロ(=つくり手)向けのセミナーに潜るという手段を使い、BIMについてコソ勉してました。BIMはビルディング・インフォメーション・モデルの略。従来のCADでは2次元の線分だった図面データが3次元化し、さらに「私は石」とか「僕は20Wの照明だよ」とか属性情報を持つようになりまして、企画ー設計ー施工ー各種シミュレーションをデータ同士で連動できるよ、というもの(たぶん)。で、いろんな人や物が複雑に絡み合うヤヤコシイ建築づくりの強力サポートシステムとなる予定。

5/27 BIMミーティング第6回@大塚商会
前半はAutodesk社がリリースするBIM対応ソフトRevitの最新開発状況と、具体的な使い方の解説です。プレゼンはBIM伝道師「RUG(Revit User Group Japan)」メンバー。面積や必要な部材量が出る、だから最初から積算を考慮しての設計ができるようです。三次元設計がデフォなので、斜線制限など企画段階でのボリュームスタディに便利なようです。さらに照明や建具メーカーからの情報提供を受ければ仕様書も簡単につくれるようになる、とのこと。

もちろんRevit内での状況。他のソフトウェアがどうなのかは判りません。ともあれソフトのシェアを高めることが生命線ですので、普及活動が非常に活発という印象です。

後半は環境シミュレーションの阪田升さんとC+Aの小嶋一浩さんのプレゼン。阪田さんの発表は、風環境・温熱環境のシミュレーションは電子データがあれば1日でできる、という話。小嶋さんの発表は「小さな矢印の流れ」というタイトル。先行して、20社40名の連携でC+Aの意匠設計により普通なら数ヶ月かかる多様な解析を含む設計を48時間で完成させる架空コンペという何とも恐ろしいイベントが行われ、その体験を受けて、ご自身が手がけたここ10年位のお仕事を、光や風、音など「流れ」のデザインから解説するというもの。

ソフトウェアとその使い方さえわかればサクサクとシミュレーションができる時代。C+Aでも簡単な温熱シミュレーション位はやってしまうそう。もうアトリエ系の事務所はもちろん学生レベルでも、温熱環境シミュレーションを設計に盛り込むのは当たり前になるかもしれません。

5/29 建築設計における「3D CAD」の導入とその利点 3D CAD 事始め其の壱
平田晃久 〜生命のような建築へ〜@OZONE


アメリカ東海岸などで普及している3次元ソフト、ライノ(=Rhinoseros)の使い手・豊田啓介さんが進行するシリーズ第一弾。個人的に、豊田さんからは昨年より建築におけるコンピューテーションの可能性について様々な示唆を受けております。(私が受けてどうするんだ、という事実はさておき)

前半は平田さんのプレゼン、後半は質疑応答。先日のミラノ・サローネの展示では太陽工業のソフトウェアを使ってポリゴンをつくり、水着をつくる技術者が立体裁断して薄膜のメビウスの環のような三次元構造をつくったそう。「3D CAD」の導入とその利点という部分については、平田さん自身は割と消極的、というかある種のもどかしさを感じている様子。少し前に『AXIS』のためにインタビューを行った際に「生命体のような建築のコンセプトと、温熱環境の連動が課題」と語っていた、その具体的なイメージがつかめたような気がしました。豊田さんのシリーズ、続編とても楽しみです。

6/5 Autodesk Solution Day@赤坂グランドプリンスホテル

建築に限らず、土木や機械など複数の分野ごとにシンポジウムが同時開催されるイベント。企業の出展も多く、ホテルが供するコーヒーも頂け、大きな展示会のようでもあります。建築セッションのみ視聴。

まずは「BIM建設革命」の著者、日建設計の山梨知彦さんによる「建築家がBIMで目指す環境設計」。小径木とNCカッターの合わせ技で、チープな国産材から効率的に、伝統的な大工仕事なしで仕口と継手の伝統的な構造をつくった「木材会館」、そして埼玉県美の展示「都市を創る建築の挑戦」でもモックアップが飾られていた、屋上の雨を土のルーバー沿いに流して建物を冷やす「土のすだれ」システムの解説もありました。セキュリティシステムのように、ランニングで環境を売るサービスプロバイダのような新しい建築ビジネスもありうるだろう、というコメントが面白かったです。

そして次は「清水建設の生産システム改革」大橋秀樹さん。こちらはメディア関係者シャットアウトのプレゼンでした。

最後は「プレファブメーカーが実現する統合化BIMへの挑戦」積水ハウスの藤岡一郎さん。積水ハウスは属性情報を持つデータで設計からプレゼン、仕様書、施工等を一本化し、照度の計算から樹木の成長までシミュレーションできる仕組みを90年代からお持ちだそう。サステイナブルへの取り組みについてのコメントが印象的。特に部材や設備の賞味期限などを考慮に入れ、家のカルテとして図面データを捉える視点はなるほど、と思いました。

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BIMのような方法が普及して、建築づくりのプロセスが系で連動するということは、たとえば建築づくりの出発点は巨匠のスケッチ……ではもちろんなく、どこから誰がつくり始めてもよく、どこで誰が修正してもよい(履歴というか、証拠は残る)ということになりえます。そんなつくられ方には、未来とか革命とかを図らずも感じてしまいます。「設計者は誰か」問題、竣工写真のとらえ方はもちろん、建築のオーセンティシティに関する議論にも影響を及ぼします。

最近は小住宅でも建築家と構造家が組んで仕事をするような傾向がありますが、これからは構造に限らず設備設計や各種解析など、多彩なエンジニアリングが相当小規模なものにも絡んでくるように思います。一方で積算や環境シミュレーションなどは、設計者がソフトを覚えれば簡単にできてしまう未来が見え、その職能自体が存亡の危機にあるのかもしれません。

ルネサンス以来の建築家=万能人論も怪しくなります。いわゆる建築家は、ある意味では(初期から経験測ではなく正確に数字をはじきながらデザインを進められるという意味で)もの凄い万能人になるでしょうし、ある意味では(ニッチな諸々エンジニアやソフトウェアに依存するので)まったく万能人ではなくなります。むしろ無責任で勝手な方がいい。いかに面白いイメージを持ち、シミュレーションに投げかけられるか。インプットのセンスが求められる感じがします。

長々と書きましたが、ようはBIMとかコンピューテーションとかにwktkしてる、ということですよ。




(*2020年、一部文章に修正を加えました。)