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この日だけ4月 29日 木 .


近美「建築はどこにあるの?」展。

建築家がインスタレーションを作るっていう以外はノーテーマ。何を作るかは基本的に建築家個人にまかせる。建築そのものじゃなくて建築的思考の展覧会。建築の知性にアートの体裁をとらせている。

オープニングですごく印象的だった塚本由晴さんスピーチの一部の要旨。「他の人の作品をコンセプトを説明されてから再度見たら、ああそういうことだったのかと見方が変わって、さらにおもしろく見ることができた。やっぱり建築っていうのは難しいことをしていると思う」。塚本さんが言うとずしっとくる。

建築がやっていることはやっぱり難しい。作るほうだけじゃなくて見る側もがんばらないといけない。「考えるな感じろ」とか言いますけれども感じられるようになるには考えないとだめ。わかりやすくない。でもそこをわかりやすくする必要はない。建築はそれだけ知的な行為だから。でも国立の美術館でこれをやるってのはいろんな意味で勇気がある。しかもまさかのノー解説。展示室には解説文がない。あと写真撮影もオッケー。キュレーター保坂さんの深い理解と信念なしには実現しなかった。

作品はどれも気合入ってて密度が濃くて目が回ります。中山英之さんのとこが(容積率としては)唯一なごめる感じのスペースになってるんだけど、座ると模型なのか実物なのかわかんないものが目に入ってきてやはり気持ちが悪い。

中村竜治さんの大気圏外なアレはいろんな意味で伝説になることが構想の段階からすでに決定していたので、「東京タワーのボルトを締めたんは、わしや」的な自慢をしてやろうと思い、み江さんもちょっとだけのりづけを手伝いに行きました。その制作現場は英国グランドナショナル(*)のように壮絶でしたが、すごく興味深かった。

ああいう規模になると、「同じことを繰り返す労力」はもちろんなんだけど、「同じにするための労力」の比重も大きくなる。つまり効率化、規格化するための労力。課題としては工業製品の生産ラインを設計するっていうのに近くなる。たとえばのりが乾燥するまで時間のロスが出る、絡んだパーツ同士を外す時間のロスが出る、組みあがったものを作業台からどかす時間のロスが出る、一つ一つは数秒か数十秒だけど何千何万積み重なるとクリティカルになる。こういう無数の小さな問題解決を繰り返していく。力技だと思われがちだけど、量をコントロールするにはどこかで質的な転換が要る。

人間の作業が均一でないのは当然だし、工業的に作られて精密機器でカットされた紙でさえ、同じように見えても加工の過程でどうしても個性が出てくる。なぜかのりがつきにくい個体とか。こういう規格外の事象をどうやって規格内に取り込むか。スタッフはそういう工夫に想像以上の時間と頭脳を使っていた。そう考えると工業製品てすごいよね。みんな同じにするためにものすごい技術と時間が使われている。

最後は山パンの工場なみに生産ラインが完成されて人が機械のように動いていたと聞きました。私が行ったときはこのままだと正直間に合わないっていうペースだったんだけど、それはまだいくつかの大事な問題解決が済んでない段階だったのですね。棟梁の若木さんが会場で、「これを別のところで展示するとしたら、分解して運んで組み立てるのと、また一から全部作り直すのとどっちがいい?」と質問されて、一から作りたいですね、と躊躇なくどMな回答をしていましたが、それはこれをつくるシステムが完成したってことを意味していると思いました。


(*)イギリスでいちばん人気のあるおうまさんの競走。7000m超のコースで障害を30個ぐらい跳ぶ長丁場。過酷すぎて騎手がぼとぼと落ちる。40頭出て完走するのは10頭かそこら