高松 伸 | 若林広幸 | ||
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大学の センセイ |
ビル オーナー |
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黒服 | ラテン系 | ||
経験論 | エピキュリアン | ||
小室哲哉 | つんく | ||
島根民 | 京都人 | ||
1948年島根生まれ 80年京都大学大学院博士課程修了 80年代、イカサマなけんちくを京都にたくさん建てて一世を風靡 1981年織陣 90年代、ベルリン進出。国際派けんちく家への道ばくしん 97年なぜか京大教授就任 | 1949年京都生まれ よくわからない前歴を経て82年けんちく家に転身 80年代後半祇園を彩るモビルスーツなけんちくをたくさん建てて一世を風靡 90年代なぜか駅や電車のデザインをする 95年京阪宇治駅 98年1928ビルでいちやく京都の顔に | ||
たかまつセンセイといえばヨウジ・ヤマモト。これだけは何があっても変わりませんな。 | おそらく生粋の京都人なのでしょう。どこをどう見ても天然で生きてる感じがします。 |
み江(以下M) いやー若林広幸さんには参りましたねえ。いつの間にか京都を代表するオシャレスポットのプロデューサー。毎日新聞と仲良くなって、いつの間にか盤石の地位にいますよ。今京都で一番アツいけんちく家。
桂(以下K) え? 高松伸先生は? いくら若林さんが最近きてるとはいえ、一般的には「京都のけんちく家」っていったらやっぱり伸センセイでしょ。京大の教授だし、ワコール本社ビル(1)もできたし。なにしろけんちく家代表としてCMにだって出たしね。
M 確かにエスタブリッシュされた評価としてはね。けど「ワコール本社新築」なんて京都市民誰も知らないじゃん。ワコール社員とけんちく関係者しか知らないって。それにひきかえ「旧毎日新聞社屋リニューアル!」は各メディアで話題。街的インパクトが違うよ。だって三条御幸町だよ? カフェ・アンデパンダンと同時代ギャラリーが入ってるんだよ? 最近はイタリアンのアマーク・ド・パラディも入ったし!
K ローカルすぎて言葉が通じてないよ! だからいくら京都でカッコイイっていっても、『建築家・若林広幸』っておそらく全国的な認知度は格段に低いんだよ。もうみんな忘れちゃってるんじゃないの? 最近はけんちくメディアから離れてるし。
M そこがますますカッコイイじゃないか。時代は地方分権っすよ。しかもけんちく家が近代建築の再生っていうネタをやったってところがえらい。けんちく家ってどうしても新しいものつくりたがるじゃん。時代は保存っすよ。
K でもあの改装、保存系の人はにはかなり評判悪いんじゃない? 武田五一先生に対するリスペクトはどっかいっちゃってるし、正統派保存の人にしてみたら「たたた武田先生のき、き貴重な文化遺産にあんな変な色を塗るとはけけけけしからんムキー!」ってとこだろう。み江さんも批判してたじゃないか。
M あーそれは……単にダサいからなあ、歴史的価値がどうのというより。まあかつてはガンダムのデザイナーだったし、どうしてもセンスが上品やシックの反対というか。
K おそらく彼にとっては五一とか祇園とか歴史の重みみたいなもんは副次的な問題なんでしょう。やりたいようにやってるだけなんだよ。軽くさくさくっとね。真面目な保存やってる人々には絶対できない技だよ、良くも悪くも。ようするに、遊び人なんだろうヤツは。
M プロデューサーは遊び人でないとつとまらんよ。近代建築でたのしい趣味ビル作ったりかわいい電車デザインしたり、「けんちく家」のせこい枠にはおさまらない商売繁盛ぶり。フットワークが軽い。
K しかも1928ビルはクライアント不在のセルフプロデュース。けんちく家が自らオーナーになるなんていうのは反則じゃないのか、けんちく家として。藤井厚二(2)以来だよ。
M これも趣味人だからできる離れ技でしょう。そこらへんはたぶんパトロン探しに奔走している一般のけんちく家には理解できない発想なんだよ。
K さらにもともとそのビルに入っていた毎日新聞社の新築の仕事もゲットしてるよ。一体どうなってるのかな? きっと一筋縄ではいかないよねえ。ビジネスの得意なスタンドでも憑いてるのかしら。
M 若林さんの場合、京都出身であるってところがすごく重要だと思わない?
K 京都人か……。それは強いな。ある意味日本最強の人種かも。生まれながらに街っ子で風流人。絶対自分を曲げないくせに社交が得意。流行なんか眼中になくて、美意識の規範は「オレ」。
M そうそう。都市であった歴史の長い街のけんちく家、という感じがするでしょなんとなく。お公家さん系か河原者系かよくわからないけど。
高松 伸 | 若林 広幸 | |
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業のふかさ | ●●●● | |
● | 脱けんちく度 | ●●●●●●● |
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●●●●●●●●●●●●● | 知名度 | ●●● |
自分を様式化することにこだわるのは業の深さの顕れ。どうしてもけんちく家はやめられないらしい。 | それにしてもなんでこんな脂っこい仕事が平気でできるのかな?京都人だから? |
M ところで、高松センセイや若林さんの場合、バブル時代にガンダムつくってた(3)印象が今でもがっちり残ってるじゃない。今でこそまったく別のロードを歩んでいるけど。それに比べると、隈研吾さんだってバブルのころははずかしいやつつくってた(4)のにみんなもう忘れかけてる。なんでかな。
K いや、隈さんとはワケが違うよ。隈さんは別にスタイルを持ってやってたんじゃないから。京都の2人の場合は明らかに『オレ様式』。スタイルで有名になったらもう忘れてもらうことはできないっしょ。
M なるほどね。じゃあ若林さんは、スタイルは維持したまま仕事の展開を変えたわけか。軽やかに「建築」を脱して、改修や電車で『オレ様式』を発揮。エレガントじゃないですか。
K 伸さんもああ見えて柔軟性があるよ。『オレ様式』一本でやっていこうなんて無茶をやるヒトじゃないんだから。海外進出もするし、地元でハコもつくるし、けんちく教育の場にも活動を広げてる。
M それ、けんちく家としてはわりと王道じゃん。
K だから器用なんだよ。どれもこなせるっていうのは大したことだぞ。とりわけ教授業に関していえば、それはもうけんちくよりも教育の方がうまいんじゃないか?というくらいの腕。ものを教えるって、天然ではなく叩きあげだからこそできる技でしょ。長嶋よりノムラの方が名監督という理屈ね。
M まあ仕事についてはよしとしよう。でもな、けんちくに関しては、なんか弱腰じゃないかなあ。スタイル変えちゃってガラスけんちくに傾倒するうえにセジマコンプレックスだわ。自分に自信がなくなっちゃったのかしら。
K スタイル変えるっていうのは造形センスがなければできないって。今まで使ったことない材料使っても破綻のないデザインができてるじゃないか。それに50過ぎて新しいことしようとするところは、ほんとにえらい。今でも毎日筋トレを欠かさないのと同じぐらいえらい。年とってデブになるようじゃ終わりだよ、肉体的にも精神的にも。
M ハラがたるんでないのはマジでえらいと思う(笑)。けどうーん、ワコール本社ビルとか見てると、上手い下手はまあ別にしても、自分の土俵で相撲とってないことがばれてしまってないか? 骨の髄まできれいにスタイル変えることができれば問題ないんだけど、どっか辛そうというか。やっぱ無理してる気がするなあ、スタイル変えることで。
K 多少無理があるのはしょうがないよ、新しい『オレ様式』をつくっている途中なんだから。それより問題は、結局何つくっても、昔の、それも処女作の『織陣』あたりを引き合いに出されるとこだね。ジャーナリズムをはじめ、評価する側にも問題はある。いつまでも昔と比較するなよ。いま伸さんがやってるガラスけんちくをあんなのと比べちゃったら、ちゃんとした同時代的評価ができるわけないじゃん。
M そういう目で見られちゃうのは自業自得。あの『オレ様式』で有名になったんだから。しかし高松センセイはどうしても『オレ様式』なんだねえ。
K 伸さんはどこまでいっても「けんちく家」なんだよ、脱けんちくしてしまった若林さんとは違って。かつてのけんちくスタイルから転身しようと思ったら、新しいけんちくスタイルをつくるしかない。
いきがり ダサい おしゃれ けんちく家
マトリクス
左の図によってあらゆるけんちく家を勝手に分類。Aエリアには文句の付けにくい大作家が入りがちです。Bエリアはまだスカスカですが、最近こっちに向かう人が増えてる気がします。Dエリアにはあまりに多くのけんちく家が入るので全部入れたら図がパンクします。Cエリアは弱者やちきゅうにやさしいのはよいのですがもっさいのがね。DエリアとCエリアでは扱われるメディアが切れます。そんで高松センセイはなぜかDエリアの深部に向かって進み、若林氏は、DエリアからCエリアに向かい、さらにBエリアに向かおうとしているのかな、というところ。なごみ
M けどさ、それだけ引き合いに出されるところを見ると、80年代の高松作品ってじつはけっこう人気あるんじゃないの?
K 好きかどうかはともかく、魅力はあった。『超ヤバイ』みたいな。やっぱり伸さんには『ヤバイ』けんちくでパンチ食らわしてほしいっていう願いがみんなどっかにあるのかもしれないね。転身しようとしている高松センセイの足をひっぱるようで悪いけど。
M あーなるほどねー。だけどいまヤバイものってあんまりウケないんだよね、残念ながら。伸さんてものすごい造形力あるし、根っからの「クリエイター」でしょ、無から有を創造するタイプの。だけど今ってクリエイター志向じゃなくてエディター志向の時代じゃん。
K ああ、すでにあるものを並べ替えてちょっとクールなものをつくるっていう発想な。好かれるのは現実的で毒のないものだもんね。まあ若いヤツもお洋服デザイナーよりお洋服屋オーナーになりたがる時世だしなー。
M そういう時だからこそ貴重だって。ちょっと流行ったパチモノのカリスマじゃなくて、ヤバイのと紙一重の、本物のカリスマ。なろうと思ってなれるもんじゃないよ。
K でも伸さん本人は伸さんであることを放棄したがってるみたいだからなあ。ファンの幻想を押しつけるのはヒロスエを清純派と思いたがるオヤジ雑誌と同じだろ。
M それに伸さん島根の人でしょ。
K はあ? 島根と何の関係があるのさ?
M うーんよく知らないけど、大昔から神さまが集まっていたところだから「超越」の香りがしない? 昔から人間が集まっていた京都が現世臭ぷんぷんなのとは違って。せっかく授かったカリスマ性を粗末にしたらばちが当たるよ。
K 何いいかげんなこと言ってんだ。
(1)ワコール本社ビル : GA JAPAN41号あたり参照のガラスけんちく
(2)藤井厚二 : 戦前の金持ちボンけんちく家 京都の大山崎に土地買ってへんな家をいろいろ建てた
(3)バブル時代にガンダム作ってた : 祇園にいくつもあるヤツら(若林)/北山の伸たっくすとかWEEK(高松)
(4)隈さんだってはずかしいやつつくってた : M2やドーリックなどのいわゆるポストモダン関係
結論 |
80年代は「甲殻類、生息地京都」として同じ項に分類されていたお二人も、時代の変化にともなって今やそれぞれまったく別の道に。伸さんはあくまでもけんちく家道を追究、新しいスタイルを開拓しようとちょっとぎこちなくガラスけんちくを研究中。一方の若林さんは軽やか〜に脱けんちくし、電車にプロデュースにと道楽的多角経営。その天然っぷりには誰も勝てねえやってことで、