■知ったかぶりたいアナタに捧げる「5分でわかる建築家」
安藤忠雄 日本の誇るパンチ力

「コンクリート打ち放し」のインパクトで大人気!実力も知名度も世界レベル、ブラウン管にもしばしば現れる建築家界の日本代表・安藤忠雄。なぜこれだけの評価を受けているのでしょう。その建築にはどんな秘密があるの?キーワードは「ブランド力」と「勇気」。ANDO建築の人気の謎に迫ってみよう。

安藤忠雄 1941年大阪生まれ。独学で建築を学ぶ。空・水・都市といった環境との関わりをテーマにした、打ち放しコンクリートと幾何学形態による独自の建築は、世界的にも高く評価されている。現在、東京大学教授。

ブラン度 ★★★★★
エリート度 ★(1/2)
コンクリ度★★★★
パンチ力 ヘビー級

フランソワ・ピノー現代美術館
2005年竣工予定 フランス/パリ
セーヌ川に浮かぶセガン島に美術館を建設する大規模プロジェクト。フランス人にとって歴史的に意味深い地であるにもかかわらず、ヨーロッパのスター建築家たちを押しのけてコンペを勝ち取った。日本人の海外での活躍はお父さんたちにも勇気を与えている。

光の教会
1989 大阪
箱型のシンプルな教会。普通教会の正面には十字架が掛かっているが、ここでは十字型に切り抜かれた打ち放しコンクリートの壁から太陽の光が暗い室内に落ちる。いわば光の十字架である。光や水を効果的に用いた荘厳な演出は安藤先生の得意技の一つ。


住吉の長屋
1976 大阪
安藤忠雄の名を知らしめた、古い木造長屋の一戸を建て替えた住宅。正面はコンクリートの壁に玄関の穴が空いているだけ。都市に対しては閉鎖的に見えるが、一歩足を踏み入れると中庭に光が満ちる。都市に住まうスタイルの可能性を問いかけた名作。


六甲の集合住宅
1983〜 兵庫
数期にわたって建設された一連の集合住宅。約60度という急斜面に沿い、豊かな緑に埋め込まれるようにして、階段状に作られている。中庭や屋上庭園が随所に配され、建物の隙間からは海が望める。外部環境を十分に取り入れたぜいたくな集合住宅だ。

世界のANDO建築は、鉄拳制裁も辞さない徹底管理に支えられている?

●千秋 あっ私、この人知ってます!前にテレビで見ました。
●所長 そうだ松本。現在の日本を代表する建築家といってもいい。つまり武豊であり小澤征爾なのだ。
●千秋 どういう意味ですか所長。武豊って競馬の人でしょう?
●所長 つまりだ、競馬やクラシックに興味のない人でも名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。建築において同じような位置にいるのが安藤忠雄だ。最近も《フランソワ・ピノー現代美術館》のコンペを獲るなど世界で活躍している。
●千秋 きっと建築がとっても上手な方なんですね。
●所長 もちろん造形力に秀でていることは建築家に不可欠だ。しかし一流と呼ばれる建築家にはたいていプラスαの理由がある。
●千秋 理由って何ですか?私にも教えてください、所長!
●所長 そうか。ではついてくるんだ松本。まず安藤忠雄の代表作を下に並べてみた。これらに共通することはないか?
●千秋 はい所長!コンクリートでできています!それから……形が四角や丸です。
●所長 その通りだ。お前のような初心者でも特徴がすぐわかるだろう。つまり一目見て安藤とわかる【ブランド力】のある建築なのだ。ヴィトンだって皆モノグラムを見てそれと認知するだろう。
●千秋 ブランド物はロゴが入っているから意味があるんです。
●所長 いい指摘だ松本。装飾のないコンクリート打ち放し。単純な幾何学図形による構成。光や水による劇的な演出。こうした独自のスタイルが確立されている。
●千秋 世界に通用するブランドなんですね。
●所長 わかったようだな。次に行くぞ。安藤の出世作、《住吉の長屋》を見ろ。大阪都心部の長屋だ。
●千秋 わあ中庭!家の中に空があるなんて素敵です!
●所長 しかし雨の日は傘を差してトイレに行かねばならぬ。
●千秋 ええっ、そんな家は不便です!私耐えられません!
●所長 しかしオーナーは満足して住んでいるそうだぞ。機能性は多少犠牲にしても大切にしたい風流があるということだ。お前も寒いのにミニスカートを履くだろう。
●千秋 はい、その通りです……。
●所長 安藤の武器はこういう【勇気ある提案】ができるところだ。時には固定概念を破る提案をしてこそ一流建築家なのだぞ。
●千秋 お施主さんも勇気がありますね。私だったら困ります。
●所長 うむ。安藤の家は緊張感があって背筋が伸びるからな。お前のようなオッチョコチョイに住みこなすのは難しかろう。
●千秋 私もこんな家に住めるようにがんばります!
●所長 無理しなくていいぞ松本。しかし安藤はあれで【社会派】なのだ。つねに都市や環境と建築の連関性を考えている。《六甲の集合住宅》にはその考えがよく表れているな。
●千秋 阪神大震災の復興にも力を入れたと聞きました。
●所長 よく知っているな。では次に《光の教会》を見ろ。シンプルなだけにコンクリートの継ぎ目が汚かったら台無しだろう。
●千秋 はい、とてもきれいです。
●所長 安藤は徹底した現場主義者で知られている。自ら職人に細かく指示を出し、質の高い仕事を要求する。あの美しい光はそうした【厳しい品質管理】の下に実現したのだ。噂によると現場はかなりハードらしい。やり直しを命じたり、怒号や鉄拳が飛ぶという伝説も聞く。安藤のパンチは怖いぞ。
●千秋 情熱的な方なんですね。
●所長 最後の秘密は【強烈な経歴】だ。松本、彼は独学で建築を学んだことを知っているか?専門教育を受けず現場で実践しながら身につけていったのだ。有名大学出身の建築家が多く活躍する中、異色の存在なのだぞ。
●千秋 でも今は東大の教授なんですよね!すごいなあ。
●所長 そしてなんとプロボクサーだった時期もある。
●千秋 えっプロボクサー?そういえば風貌もちょっと怖そうです。
●所長 だから安藤のパンチは怖いと言っただろう。でも本人は大阪のオモロイおっちゃんだと聞いているがな。

◆二人のプロフィール 100W
所長 設計事務所・村沢アトリエ所長。自称理論派、意外に熱血な36才。
千秋 松本千秋。先月から村沢アトリエでアルバイトを始めた、どじで正直者の21才。今日は所長が尊敬する安藤忠雄について熱く語る。
都心に住むvol.9冬号