■東京・京都最高の二泊三日を教えます
建築&デザインの重要アドレス100 (一部抜粋)
3日目

最終日は北山通のファンキーな現代建築めぐりから。京都盆地の最北、のどかな畑の広がる五山送り火「妙」「法」の麓に、80年代から90年代にかけて、ユニークな建築が続々と現れて話題を呼んだ。
まずは北山といえば高松伸。この街のイメージを作っているのは、氏の手による建築の数々だ。とりわけビシッと腕を広げて立つ《syntax》の勇姿は、大阪万博における太陽の塔のような存在感。
そして大物建築家、磯崎新も。池やスロープで人々を回遊させるかのように地下鉄駅から座席まで運ぶ、《京都コンサートホール》のゆとりある構成は郊外ならでは。
さらにここでは安藤忠雄も超本気。屋外ミュージアム《陶板名画の庭》は、起承転結のしっかりしたドラマティックな空間で、安藤建築の構成を鑑賞するには最適だ。
経済が失速した現在、開発は休止してはいるが、世界的トップスターが競演する建築博覧会のごとき景観が残されているのは、僥倖か皮肉か。というわけで、大物ぞろいの最終日、最後は《北山コンドミニアム》の50m先、カフェ・ドジあたりで緊張感をゆるめてお帰りくださいまし。


●京都府立陶板名画の庭 安藤忠雄 1994年竣工。サラリとした外観に反して、エントランスから地中深く潜り込むダイナミックな空間構成。人工物だけでどこまで空間を演出するか、という限界に挑戦する回遊式庭園立体版。この美術館、主役は建築ですか?と疑うほどに、空間だけでも見せ場たっぷりだ。

●京都コンサートホール 磯崎新 1995年竣工。ゆったりしたプランに円形に巻き上がるエントランス。じらしテク満載の大人仕様なので、時間に余裕を持って入ろう。

●syntax 高松伸 1990年竣工。ロボットが腕を広げたような形で、夜になると飛び立つとか、真ん中の窓からはビームが出るとか、ジョークのバリエーションもさまざまなビックリ建築。

●B-Lock北山 安藤忠雄 1988年竣工。孤を描くコンクリートブロック壁に囲われたボックス、なだらかに幅が狭まる階段が憩いの空間を演出。構成の妙を楽しむ静謐な商業空間。

●WEEK 高松伸 1986年竣工。北山開発初期の話題作。ギザギザ鉄パイプに鉄骨ブリッジという空間言語が田園風景に突き刺さっていた。パイプのカラーは竣工当時の赤→銀→青(現在)と、しばしば変化。

●北山コンドミニアム シーラカンス 1987年竣工。北山建築博覧会の中心地から少し離れて、シーラカンス初期作品がキラリ。落ち着いた打ち放しRCで、集合住宅&テナントというプログラムにキッチリ回答。

●Ining'23 高松伸  1987年竣工。Syntaxの向かいに立つ。敵の放つビームに対し、ファサードのV字型メタルで対抗か? 内部空間は吹き抜けやトップライトで演出され、商業施設として成功。

MUST TO SEE

○ 西京極プール
西京極総合運動公園に新しく加わった、国際大会も開催できる大規模な公共プール。大小二つのプールがエントランスホールで結びつけられる。斜めの壁面やブリッジを多用、複雑すぎて破綻する一歩手前というくらい凝りまくったプランは團紀彦によるもの。ソーラーパネルや屋上緑化によるエコロジー芸を繰り出すのは仙田満率いる環境デザイン研究所。両者一歩も譲らず、がぶり四つで練り上げられた意欲作だ。屋上の芝生では市民が犬の散歩を楽しんでいる。

○京都駅
安藤忠雄やバーナード・チュミといったビッグネームが名を連ねる国際コンペで選ばれた。大きなアトリウムに空中径路や大階段がにぎわいを演出する、サービス精神あふれる建築。その派手な外観により当初は日本中を巻き込んでの論争があったが、完成から6年を経てすっかり定着、今や京都タワーをしのぐ京都の顔に。大階段はカップルのたまり場に、空きスペースはダンスの練習に、と、日々新しい使い道が開発されている模様。

○大山崎山荘美術館
安藤建築で陥りがちなのが、中身が器に負けてしまい、「安藤忠雄の一人勝ち」という状況。しかしこちらは周辺要素のいずれもが安藤忠雄と勝負できるツワモノだ。既存の本館は、実業家・加賀正太郎自らが設計したハーフティンバーの英国風山荘。その庭の一部に安藤忠雄による新館が埋めこまれ、よく手入れされた庭にコンクリートが映える。またモネの"睡蓮"を所蔵することでも有名。洋館に現代建築、アートに庭と、すべてが一流という得がたき美術館。

○順正 清水店
義歯の製造で財をなした松風嘉定の旧邸が、老舗湯豆腐店に。和風の瓦葺の屋根には風見鶏、クラシカルな付柱の柱頭には中華風の雷文が。設計者は、アールヌーヴォーを初めて日本に持ち帰り、その後もスパニッシュにアールデコと、あらゆる様式をトランスした武田五一。硬直した近代建築界に革命を起こした建築家の集大成、というにはあまりにも和洋中華折衷しすぎなポストモダン的珍建築。洋館で湯豆腐?という違和感も、建築を観察すれば納得だ。

○新風館
大正から昭和初期にかけて設計された旧京都中央電話局が、ファッションビルとしてリニューアル。既存建築の外観には手を加えず、ロの字型の中庭をぐるりと囲むように、鮮やかなブルーの仮設的な鉄骨フレームを挿入。新旧を明快に可視化したリノベ手法は、構造をデザインと一致させるハイテック建築のロジャースらしい。ステージやシアターをもつ中庭は、街なかの気軽なイベント会場とあって、若いアーティストや学生からけっこう重宝されている。

○船岡温泉
国の登録文化財ですが、近所の人たちが毎日やってくるれっきとした現役の銭湯です。大正時代に料理旅館として創業、戦後は銭湯に。唐破風の入り口をくぐると、創業当時の凝りに凝ったインテリアが残る。欄間には京都の祭や爆弾三勇士などとりどりの透かし彫り、そして格天井には鞍馬天狗のあまりに立派な彫り物。色鮮やかなマジョリカタイルや手描きのタイル絵も楽しい。いつまでも見飽きない手仕事の数々、夜1時まで開いているのでごゆっくり鑑賞を。

○琵琶湖疎水水路閣
明治期京都最大の近代化事業、琵琶湖疎水計画の一環でつくられた全長93メートルの水道橋。琵琶湖の水を京都へ引っぱるという役割においては未だ現役という驚異の土木遺産だ。ローマの水道橋を規範に作られたレンガ作りのアーチは南禅寺の境内にすっかり溶け込んでおり、かつてのモダンの象徴は古都を演出する舞台装置へと変貌した。しかし竣工当初は景観破壊といわれ、ものすごい反対を受けたというから、今も昔も京都ってやつは…。

○宇治上神社
狭い境内に、日本最古の神社建築という流造の本殿(奧)と、寝殿造風の拝殿(手前)が段差をつけて平行に並ぶのみ、という、あっけないほど禁欲的な構成。装飾が少なく、屋根の形で勝負を決めるというシンプルな建築は、モダニズム建築を見慣れた目にはすんなりと理解できるテイストだ。ともに国宝、かつ世界遺産、という勲章のわりにはあまりの素っ気なさに驚くが、そのぶん近くに寄ってディテールをじっくり観察できる貴重な遺構。

○京都府庁
ロの字型平面で、ネオ・ルネサンス調にまとめた明治時代の力作。現役の庁舎建築として全国で最も古い、という謳い文句に違わず、正面の車寄せが実際に車寄せとして使用されているほどの現役っぷりを見せている。華やかな表側と異なり、中庭側は装飾控えめ。限られた予算で仕上げた当時の建築技師たちの努力も偲ばれる。正面には、竣工時に付近の寺院から贈呈されたという松。現代アートのような枝振りが、純洋風建築に意外とマッチしている。


Casa BRUTUS 2004年5月号